調 律
今までに、ヨーロッパスタイルの調律を体験されたことがありますか? ピアノは、鍵盤を押すだけで誰にでも簡単に音が出せますが、その中身はとても複雑です。 普通、調律というと2時間弱で終わるものだと思われています。 ピアノが「音楽を表現する楽器」として機能するためには、音の伸びや、ふくらみが出る 様にしたり、弾き方によって音色が変わるようにするなど大変細やかな調整が必要になり ます。 このため当店では、一般的に考えられている調律時間の4倍以上の時間を費やして ピアノに手を入れることもあり、時には丸一日かけて調整することもあります。 このように時間をかけて丁寧にヨーロッパスタイルの調整・調律を施すことで、驚くほど 音が変わり、ピアノが生まれ変わります。
修理
国産ピアノの修理は、ピアノが新品だった頃よりさらに良い音となるような工夫として、 ドイツ製のパーツを使用致しております。 ヨーロッパ製のピアノの修理は、メーカーの設計思想をきちんと理解して、メーカーの供給 する純正パーツを出来るだけ使用するように努めています。
イェルク・デームス氏との出会いと調律
1999年夏以来ウィーンのピアニスト、イェルク・デームス氏の所有する80余台のピアノの調律に呼ばれるようになりました。初めて行った時、ウィーンやザルツブルグの調律師たちの仕事も見せてもらいました。 驚いたのがコンサート前の調律でした。 ユニゾンがまだ合ってないのに次の音に移ってしまったのです! いよいよコンサートが始まり、客席で聴くことにしました。なんとビックリ。 あの狂っているはずのピアノが....なんとも素晴らしい声で歌い、その音はいまだかつて 聴いたことがないほど長く伸び、響きを伴っているのです。 美しいハーモニーや様々に変化していく音色は、まるでオーケストラを聴いているかのよう な感動で、思わず涙してしまいました。 あの時の感動!あの音!! 「彼の調律を自分も身につけたい」 そう思って挑戦したのは当然です。 彼の調律を見ていた時に1つだけ気づいたことがありました。 初めはわざとユニゾンを狂わせてるのだと思っていたのですが、 彼の聞いている所が違う所にあることに気づいたのです。 倍音ではなく基音だけを聞いていたのです。 今まで自分が基音だと思って聞いていた音は倍音だったのです。 もう1オクターブ下に基音が隠れていたのです。 2倍音を合わせると、基音はほとんど消えていたのです。 それ以来このヨーロッパスタイルの調律を行って、多くの方に喜んで頂いています。 さて、ここからはイェルク・デームス氏が教えてくれた次の4つの事柄をもとに、 私の調律スタイルをお話します。
"クラシックにおいて作曲者はピアノ曲を次の4つのことを想定して創ります"
多くの曲を聴くと確かにシューベルトのピアノ曲は歌詞が付いてるように聞こえ、 モーツァルトやベートーヴェンのピアノ曲はオーケストラや室内楽、プロコフィエフや スクリャービンは金管楽器が多く聞こえてきます。 では何が違い、どのようにこれらの表現がなされているのでしょう。 西洋音楽の歌い方の基本は喉だけではなく身体全体で歌うということです。 日本の伝統音楽は声帯を中心とした歌で、浪曲や浪花節などは判りやすい例です。 では日本で行われている一般的な調律はどうでしょう。 「パンー」とアタックは歯切れよく鳴ります。 ところが長く伸びた音を聞くと、弱く弾いても強く弾いても「ンー」としか伸びません。 アタックの音色は「ポン、カン」とやわらかくなったり、硬めになったりはするのですが 言語で言う子音が変化しているだけで、母音は「ンー」と変わらないのです。 音の形も聞いてみましょう。 鳴った瞬間の音をピークに次の瞬間に音量は落ち、心電図の波型のようになります。 歌曲を歌う時に誰が「パンー」と歌うでしょうか?おなかの底から腹式呼吸し、喉を開いた 声が気持ちよく会場に響き渡るのです。 私は以前は楽器曲ばかり聞いていて、歌曲があまり好きではありませんでしたが、 ウィーンに初めて行った時、本物のオペラを見て人の声の素晴らしさに感動し、人の声は 最高の楽器なのだと感じました。 素晴らしい、気持ちの良い声の原因は喉を開いている発声にあるのではないかと思います。 日本での調律は純粋な、澄んだ歯切れの良い音だけを出そうとする事が多いように感じます。調律学校を卒業して間もない頃の私もそうでした。 確かに日本で多く行われている調律と比べてみると、私がヨーロッパで覚えてきた調律には 付帯音がたくさんあります。 倍音はうなって聞こえますが、それ以上に基音は太く出ていて、基音そのものはうなって いないのです。しかし、一度「うなり」を聞くことに慣れ てしまった人には、なかなか受け入れてもらえないことが 多いです。何故でしょう?きっと日本の長い住環境と 言語の違いが、聞き方に違いを生み出していると思います。 湿度の高い日本、障子や畳、ふすまや土壁で出来た家は 湿気と共に音も吸収してしまいます。 伝統楽器はその環境にあった三味線や琴、尺八なのです。 歯切れ良く、短い音ですぐに消えてしまいます。 外国の人には日本語は短い発音の連続でマシンガンのように聞こえるそうです。 日本語には巻き舌や喉を震わせるRや、Ch(カとハの同時音、喉に詰まった魚の骨を出す ような)の発音はありません。 ですから日本人調律師はRやChの付帯音がピアノから出てくると濁音と感じてしまうようです。また日本語の母音は「あいうえお」の5つしかありませんが、ヨーロッパの言語にはもう少し 微妙な発音の母音が存在しています。 石造りの教会や宮殿の中で生まれ育った響きのある西洋音楽では、音の頭だけではなく、 音のお尻の伸び方まで聞く事は大切な事だと思います。 音の伸び方、気持良い発声をピアノで表現しようとした時に、ピアノでもお腹から出す声は 1オクターブ下の潜んでいる声が出てきた時に「ンー」ではなく「アー」と開放的な伸びた 声になり、気持ちの良い響きとして聞こえるのです。 このように調律されたピアノを指の腹を使ってそっと鳴らしてみると「オー」や「ウー」 と少し閉じぎみの声も出ますし、手首を徐々に上げてゆくように弾くと「アー」と喉を リラックスして発声した声も出てきます。 この ヨーロッパスタイルの調律は ヨーロッパに留学されていた多くの先生方 から、 「向こうで弾いていたピアノはこの音だった」と喜ばれています。
曲目 (1)ヴァイオリン・ソナタ ト長調(ルクー) (2)ヴァイオリン・ソナタ イ長調(フランク) (3)子供の夢op.14(イザイ)